代表挨拶
President’s Greeting
ブリーフセラピーの萌芽から約50年、この間ブリーフセラピーは様々なアプローチを生みだしながら進んできました。ソリューション・フォーカスト・アプローチ、ミラノ派、ナラティブ・セラピーなどがそれにあたります。
それらの、そもそもの出発点がMRI(メンタルリ・サーチ・インスティチュート)で生まれ今年、50周年を迎えるという訳です。ところがたとえばMRIアプローチよりもSFAの方が優れているとかナラティブセラピーが先端的なアプローチだとか、SFAはミラクルクエスチョンから始めるものであるとか云々です。理論的にも技法的にも混同があります。たとえば、SFAの「例外」概念はMRIの DO DIFFERENT介入を えるための一方法として生まれたことは、ドシェーザーの「解決志向の言語学」に明記されいます。解決に焦点を当てるということさへ、MRIのウィークランド先生から学んだものであることを、1984年以来の交流の中で、僕らはよく聞かされてきました。
国際ブリーフセラピー協会は、この辺りの、理論的土台、エピステモロジー(認識論)、セラピーの技法、そして何よりもその土台を応用し複雑な対人システムを自由自在に解きほぐすことが出来る人材の育成を目指していきたいと思います。
多様化し複雑化しつつある現代の問題に対して、より実践的で効果的な家族、学校現場、組織等への治療的、援助的アプローチに関心をお持ちの方々、日本からブリーフセラピーの今後を発信していこうという志を持ち、共に学んでいこうという方々の参加をお待ちしております。
国際ブリーフセラピー協会代表 長谷川 啓三
理事長挨拶
Board Chairperson’s Greeting
はじめに
近年、特にこの50年は、社会の急激な変化に伴い、家族や社会の組織も大きく変化をしています。
50年前といえば、グレゴリー・ベイトソンがベトナム戦争退役軍人専門の精神病院にて、家族システムにおけるコミュニケーションパターンに着目し、ダブルバインドに関する論文を発表したのが1956年であり、それらの研究成果やベイトソンの理論を土台にした家族援助研究機関MRIが設立されたのが1959年です。よって、50年前というのはちょうどブリーフセラピー誕生の萌芽の時期と言えるでしょう。
そして現在のこの数年の間に、MRIアプローチを牽引したポールワツラウィック、解決志向アプローチのド・シェイザーやインスー・キム・バーグ、そしてナラティブ・セラピーの創始者であるマイケル・ホワイトが相次いで死去しました。おおよそ50年、ブリーフセラピーも新たな区切りを必要としている節目の時期とも思えます。
ブリーフセラピーの日本への紹介
1980年代に長谷川啓三先生(東北大学大学院教授)や小野直広先生(晩年東北福祉大学教授)らにより解決志向アプローチが日本に紹介され、1980年代には「短期療法を学ぶ会」が発足し、今日まで定期的な研修活動と研究活動が行われてきました。
その後ブリーフセラピーは、時代のニーズとも相まって近年の間に新しい臨床分野として広まってきました。特にスクールカウンセリングを初めとする教育領域、児童相談所や養護施設などの福祉領域、看護領域、司法領域など、家族や組織等様々な人間関係が層を成す問題が多い臨床領域において、ブリーフセラピーはもはや欠かせないアプローチとなっています。
日本ブリーフセラピー協会の設立
その社会的ニーズにこたえるべく、全国にまたがる「短期療法を学ぶ会」を統括する組織として、日本ブリーフセラピー協会が2007年に設立されました。現在、ブリーフセラピスト実践者の養成と鍛錬、そして研究活動の拠点となっています。
この協会の研修や養成講座には、カウンセリングや心理療法にたずさわっておられる専門家をはじめ、教育、医療、看護、保健、福祉、矯正、地域活動に関心を抱かれる方が全国から集まり、熱い学びとディスカッションを日々行っております。
日本ブリーフセラピー協会の意義
それぞれのアプローチの創始者が(強調するかどうかは別としても)その理論的基盤としていたのにも関わらず、後世のカウンセラー達へのトレーニングを受け継いでいく際に欠落していったものがあります。それがベイトソンを原点とするシステム論・サイバネティックス理論に基づいたものの見方、そしてシステムを見る方法論としてのコミュニケーション理論、そして理論と技法の関連についての理解です。
このような理論的土台は、一朝一夕に学べるものではなく、またその硬さやとっつき難さから、臨床志向のカウンセラー達にはウケが悪い。その理由から、ブリーフセラピーの理論的土台となるべき認識論はトレーニングの際に隅に追いやられ、伝えやすいいわゆる技法やHOW TOを中心に広まっていくという傾向があります。
それは、日本だけではなくむしろ世界の方がよりその傾向が強いといえるでしょう。私がブリーフセラピーの本家本元のMRIに留学したときですら、その傾向を強く感じました。おそらく、レベルに開きがあるカウンセラーの多くを一堂に集めてトレーニングを行わなければならない機関の宿命と裏表です。
しかしここ日本において、この日本ブリーフセラピー協会だけは、きちんとした理論的土台、認識論の理解、そして何よりもその土台を応用し複雑な対人システムを自由自在に解きほぐすことが出来る人材の育成を目指していきたいと思います。
多様化し複雑化しつつある現代の問題に対して、より実践的で効果的な家族、学校現場、組織等への治療的、援助的アプローチに関心をお持ちの方々、日本からブリーフセラピーの今後を発信していこうという志を持ち、共に学んでいこうという方々の参加をお待ちしております。
国際ブリーフセラピー協会理事長 生田 倫子